13年前、この街が好きで休暇のたびに遊びに来た。
首都のマドリードからバスに乗って、9時間の旅をしたものだ。
マドリードの街で友人を介して知り合った男の子の実家がこの街にあり、家族への紹介も受けて彼の実家に何度もお世話になった。(この男の子は後にわたしの旦那さんとなり、今では元旦那さんになった)
雨に濡れた石畳みが物言いたげで、その言葉を求めて、路地を曲がり、もう一段細い路地へ入り込む。
誰ともすれ違うこともない迷路の様な雨に光る細い路地に心が躍ったものだ。
行き着く先も決まってはいないのに、誰かを追いかけている様な、待ち合わせに遅れている様な、はやる気持ちで次の角を曲がる。
右に曲がる、左に曲がる。
この路地に入ろうか迷う、、、そして入る。
あの頃に、あの時の瞬間に写真を撮ればよかった。



今日、夜の九時半、雨上がりにその頃を思い出して夜の旧市街を歩いた。
好きだった雨に濡れた石畳みを写真に収めるために。
オレンジ色が反射する物言いたげな苔むした石畳みをもう一度感じるために。
、、、、だけど、、、、
、、、、だけど、、、、
あの頃の雨上がりの石畳みはどこにもない。
街灯が変わったのか?
空の色が違うのか?
そこにひっそりと住む人たちの押し殺したような息遣い?
旧市街の建物の外観のリフォームは禁止されている、、、
昔と変わらないはず。
でももうあの頃のドキドキする路地や、雨に反射するオレンジの石畳みの風景はもうなかった。
何が違うのだろうか?
愛する者の不在?
見ている私の目?
感じる私の心?
慣れてしまった怠惰な自分。
この街はもう、色を無くしつつある?
この街の意味を、
私はもう無くしかけている?
この街の色や、匂いを
わたしはもう忘れてしまった。
何故この場所にいるのか?
どのようにこの場所を選んだのか?
建物の色や、車の音、道ゆく人の笑顔、挨拶する声。
私はもうその意味を知らない。
時間が、いろんなものを変化させていく。
抗うことはできない。
悲しく思うも、認めるしかない。
この街はもう、わたしには意味のない場所。

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